生きていく上で何より健康が第一。家族の健康を守るため、私はずっと料理をしてきました。

ウー・ウェンさんが生まれ育った中国・北京では小麦粉料理が主食です。30年前に来日され、お祖母様やお母様が毎日作っていた、手作りの水餃子や麺類などの中国の家庭料理があまり知られていないと感じ、クッキングサロンをスタートされました。2001年に「北京小麦粉料理」を上梓。日本でもおなじみの味から、あまり知られていない粉料理まで網羅されたこの本は、小麦粉料理大全集となっています。大人気を博したこの本は、2021年に「ウー・ウェンの100gで作る北京小麦粉料理」としてアップデートされました。より作りやすい分量で実用的な小麦粉料理の本となって、私たちに北京の小麦粉料理の魅力を一層深く伝えてくれています。

==大麦粉を使ったことはありましたか。

中国では、穀物の一種として大麦はよく使いますよ。そのままご飯やお粥として食べますし、粉としても売られているので、粉料理にも使っています。
日本では、白米が一番美味しいと、毎日の食事では白いご飯を召し上がる方が多いようですね。中国では、米以外のさまざまな穀物を日常的に取り入れた食生活をしています。万遍なく、さまざまな穀物を食べることが体によいとされ、特に大麦は健康によい食材として認識されています。
中国ではどこでも売っている大麦粉ですが、日本で手に入らないのを残念に思っていました。ですから、わが家では健康を考えて、餃子や麺などに全粒粉を加えて作っています。
今回、その全粒粉を大麦粉に替えて作ってみたら大成功。大麦粉のもっちりした口当たりも楽しいですし、何よりも、いただいた次の日は体がとても軽やか。お腹がすっきりするので、起きるのが楽しみなほどです。

==食と健康は結びついているものでしょうか。

「食べることは体を作ること」と考えています。中国では「医食同源」という考え方が根付いています。毎日の食事が病気にならない体を作るという意味です。生きていく上で何より健康が第一。家族の健康を守るため、私はずっと料理をしてきました。

==大麦粉を使っていかがでしたか

中国では使っていましたから、レシピ作りは難しくはありませんでした。ただ、大麦粉は、小麦粉と違い、グルテンがないという特徴があります。だから、餃子や麺、餅(ビン)は、小麦粉と合わせて使いますので、その配合には工夫をしました。だって、大麦の機能性を考えれば、なるべくたくさん入れたいでしょう? 大麦粉をなるべく多く使い、味は小麦粉100%で作ったものと遜色ないものにしたいと、レシピを考え抜きました。中には大麦粉100%で作れるものもありますが、どれも、大麦粉風味を生かした仕上がりになったと思います。あれこれ作ってみて、私自身もとても勉強になりました。

==ウー・ウェンさんの一番おすすめのレシピはどれでしょうか。

「ガーダスープ」です。「ガーダ」とは、中国語で「たんこぶ」や「げんこつ」を意味し、麺でも皮でもない、小麦粉料理のことです。日本にも似たような郷土料理があるのではないでしょうか。大麦粉と水を混ぜてフレーク状にし、スープに加えれば、グルテンがなくてもかたまります。大麦粉のおかげで、スープ自体もとろりとなって、とても美味しい。スープをわざわざ作らなくても、お湯でガーダを作り、塩とこしょう、ごま油で味をつけただけで充分。シンプルなスープの出来上がりです。作ろうと思ってから10分で完成しますので、朝の忙しいとき、小腹が空いたとき、お夜食に作ってみてください。
このガーダスープは、グルテンを必要としないので、大麦粉100%で作れるのも魅力的です。大麦粉の香り豊かな風味を存分に味わえ、大麦粉料理として、とてもおすすめ。

==麺も作ってくださいました。

大麦粉と麺は相性がよいんですよ。それから小麦粉だけで作る場合、粘りが出て、初心者には扱いにくい場合があります。大麦粉を加えることによって、グルテン量が少なくなり、作りやすくなります。みなさん、麺類がお好きですね。あのつるつるした食感が魅力的。大麦粉を加えた麺は、つるんとした口当たりのよさが特長です。それから、麺自体に塩を加えていませんから、とてもヘルシーです。甘めの肉味噌の炸醤麺 、日本でもおなじみの担々麺、冷やし中華を今回、ご紹介しましたが、お好みの味と具材で大麦粉麺を楽しんでください。

==今後、ご自身の生活に大麦を取り入れますか。

もちろんです。人生100年時代と言われていますが、寿命が長くなったとしても、健康でいられる時間が長くなければ意味がありません。健康は食が作るもの。日々の食事で体が作られるのです。そのためにも、大麦のような穀物を積極的にとり入れて欲しいです。
大麦の可能性は無限大かと思います。日本ではまだまだ認知度が低いのが残念ですので、微力ながら私からもその魅力を少しずつ発信していきたいと思っています。

ウー・ウェン●ウー・ウェンクッキングサロン主宰
中国・北京生まれ。1990年に来日。ウー・ウェン クッキングサロン主宰。料理上手な母から受け継いだ料理が評判となり、料理研究家となる。97年より「ウー・ウェンクッキングサロン」を開設。「医食同源」の考えが根づいた中国家庭料理とともに、中国の暮らしや文化を伝えている。少ない材料と調味料、道具で作る、体に良い知恵が詰まったシンプルな料理が人気。時代に合わせてレシピも進化していることもあり、ファンが急増中。クッキングサロンのお知らせや、ふとした日常を綴ったInstagramも好評。
主な書籍
「ウー・ウェンの北京小麦粉料理」「ウー・ウェンの100gで作る北京小麦粉料理」「大好きな炒めもの」(全て高橋書店)「料理の意味とその手立て」(タブレ)「本当に大事なことはほんの少し」(大和書房)「ウー・ウェンさんちの汁物とおかず」(光文社)など多数。
HP:https://cookingsalon.jp
Instagram:@wuwen_cookingsalon