「一家にひとつ大麦粉を」、ですね。ふだんの生活にも取り入れられるように普及したらいいなと思います。
「ビゴの店」プランタン銀座店に入店。「銀座レカン」グループのブーランジェリーシェフを務め、2007年にはパンの世界大会である「モンディアル・デュ・パン」に日本代表として選出された割田健一さん。現在は、東日本橋の問屋街に、行列が絶えないパン屋「BEAVER BREAD」のオーナーシェフとして活躍しています。ジャン=ミシェル・バスキアに憧れ、誰かの真似ではない、自分らしさを大事に表現することにこだわる割田さん。単なるパン職人ではなく、プロデュースという立場にも身を置きながら、自分らしいパンを日々探求しています。
==大麦粉の印象を教えてください。
なんの気難しさもなく、スムーズに使えたというのが正直な印象です。パン作りでは、小麦粉以外にもライ麦粉や全粒粉など、さまざまな粉を使います。そういう粉同様に違和感なく、スーッと使えましたね。
多くの食材を見てきましたが、これを使うには、テクニックが必要だったり、強引にパンに合わせたりしなくちゃならないものありましたが、なんの抵抗もなく、スムーズに使えることは、パン作りにとても大切なポイントです。いつもの仕事ではない流れになるとか、いつもの手順を変えるとか、意外にストレスなんです。大麦粉は「いつもの仕事」をさせてくれる。これが一番の魅力じゃないかな。
==パンと健康の関係をどう考えていますか。
うちのお店では、食材の質には気を遣っています。例えば、牛乳は低温殺菌牛乳を、塩は瀬戸内産の藻塩を使っています。ただし、お店では素材のことは謳っていません。パンは主食ですし、長く食べ続けてくださるお客様もいらっしゃいます。だから、できるだけ良質な食材を使っていきたい。食べてみて、なんとなくでいいので、違いをわかってくださったら、というスタンスです。その中で、大麦粉は美味しさとヘルシーさをダイレクトに伝えられる食材だと思いますので、お客様にすぐ響くのではないでしょうか。
==大麦粉は幅広く使えますか?
大麦粉はどんな材料にもよく合います。小麦粉と合わせるのはもちろん、砂糖、塩、牛乳、バター、オリーブオイルなど、パン作りにおいて不可欠な食材に自然に寄り添ってくれます。しかも、お互いのよさを引き立て合うのが特長ですね。昔から使われていて、いまはあまり流通していない食材を見直す動きは、大歓迎です。今回の取り組みもそのひとつですね。国産の小麦粉+大麦粉の組み合わせで、パンの世界に、味の広がりが生まれると思うと、わくわくします。
==今回作ってくださったレシピで、割田さんイチオシはどれでしょう。
フォカッチャですかね。大麦粉を50%配合しています。オリーブオイルとバターが入っていますので、油との相性がよい大麦粉の存在感がしっかり感じられます。粉の香りがして、中はふわふわ、スーッとはかない感じの口溶けのよさもあります。フォカッチャといえば、2日目はパサパサになるイメージがありますが、これは次の日もその次の日もしっとりとしていて食べやすい作り方にしています。
==大麦粉の可能性について、どう思われますか。
みなさんの家に小麦粉が必ず常備されていると思いますけど、それと同じように常に置いてあるといいですね。天ぷらやから揚げの衣に。市販のホットケーキミックスやお好み焼き粉などを使う場合でも、スプーン何杯かの大麦粉を加えるだけで、味にコクが出ます。「一家にひとつ大麦粉を」、ですね。ふだんの生活にも取り入れられるように普及したらいいなと思います。
==今後、お店で大麦粉は使う予定ですか。
巷で、僕のパンは「割パン」と呼ばれているようです。割田のパンで「割パン」。今回の大麦粉との出会いは、素晴らしい発見の連続でした。今後も割パンに大麦粉を取り入れていきたいと思ってます。可能性を多く秘めた大麦粉を使うことで、パン自体の存在感が出てきて、トーストするとパリッするとか、風味が高くなって香りが違うとか、割パンのアップデートに大麦粉が活躍してくそうです。
割田 健一●BEAVER BREAD(ビーバーブレッド) シェフ
「ビゴの店」プランタン銀座店で修業、同店でシェフを務め、2007年、パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」の日本代表に。2011年に「銀座レカン」のブーランジェリーシェフを務め、2017年に東京・東日本橋に「ビーバーブレッド」開店。行列ができるほどの人気店になる。料理人からも絶大な信頼を得て、一流レストランのパンも焼く。