バターや乳製品との相性はすごくよいので、今後いろいろな洋菓子の分野でも使えると思います。

小嶋ルミさんは、日本の女性パティシエの草分け的存在です。あくまで自然素材にこだわり、添加物などは使わず、手作業を基本にし、素材の持ち味を活かしてお菓子作りをされています。例えば、小嶋さんのクッキーは、口に入れれば、粉やバターの風味が広がり、サクッ、ホロッと溶けていくような食感。思わず、幸せな気持ちになります。そこには、プロの世界には存在しない、小嶋さん自身が編み出した裏技、素晴らしい技術があるのです。そして、一般向けのレシピでも、それを惜しみなく、わかりやすく伝えるようにされています。そんなお菓子作りにこだわる小嶋さんが大麦粉に出会ったら。

==大麦粉はいかがでしたか。

想像していたより、ずっとすんなり大麦粉を使えたことには本当に驚きました。小麦粉の代わりに大麦粉を使いましたが、スムーズに置き換えられてびっくり。通常、雑穀が入ると硬くなったり、口溶けが悪くなったりと影響が出ますが、ほぼありません。
大麦粉は健康的なイメージがあり、お菓子のリッチな美味しさと喧嘩をしないかと気になっていましたが、実際に使ってみたら、とても香ばしく焼き上がり、邪魔になんてならない。反対に、そのかぐわしさが魅力になります。小麦粉だけで作るより、ぐんと美味しくなることもあります。大麦粉入りのお菓子は、食べる方にもその個性がきちんと伝わりそうです。作ってみて、大麦粉の特長を活かした製品として開発ができると確信しました。低糖質でヘルシーなお菓子、お客様も絶対に喜びますよね

==大麦の健康効果を期待されますか?

小麦粉は精白されていますから、本当の意味で健康的な素材かどうか、いつも疑問に思っています。お菓子は嗜好品であり、健康的かどうかを問われることは少ないと思います。でも、体に入るものですから、私はなるべく体に優しいお菓子を作りたい。そのためには、大麦やスペルト小麦(古代小麦)などを上手に取り入れようと考えています。それは、風味として優れているからできることです。

実は、夫の食事がすごく不規則だったりするのです。今回、大麦の健康機能性の話を聞いて、今からでも少し大麦を混ぜたものを食べてもらいたいと思っています。ご飯に大麦を混ぜてもよいと思いますし、たこ焼き、お好み焼き、天ぷらなど、料理にも使っていきたいと思います。今後は大麦粉でパンも焼いてみたいですね。

==お菓子はあまり複雑にしないほうが美味しい場合は多々あるとおっしゃっています。

はい、あまり複雑な構成のものより、食材の味がわかるものが好きです。焼き菓子だったら、粉とバターの味わい。フルーツのお菓子は、フルーツの味がはっきりとわかるような味に仕立てます。モンブランなら、栗を取り寄せて茹でてペーストにします。フルーツは味の強いものを選び、生から加工しますね。プロの材料には、すでに工場で加工されたものがたくさんありますが、それらに頼らず、自分たちの手で素材から作るようにしています。そういう積み重ねが自然な味わいとなり、飽きずに召し上がっていただけるのではと思っています。

==大麦粉はどんなお菓子との相性がよいですか?

バターや乳製品との相性はすごくよいので、今回のレシピにとどまらず、今後いろいろな洋菓子の分野でも使えると思います。同じくグルテンを含まない米粉は風味がやや弱いです。一方、大麦粉は風味がしっかりあって、とても魅力的な素材です。後味にぬるっとした食感が出てきて、ちょっとしたえぐみもありました。それも含めて、上手に使いこなしたいですね。

==小嶋さんの一番のおすすめレシピはどれですか。

大麦粉100%で作ったシフォンケーキです。他のお菓子は少しテクニックが必要かもしれませんが、大麦粉100%のシフォンケーキは、ふんわりやわらかく仕上がって、お菓子初心者でも、簡単に美味しく作れると思います。ぜひ試していただきたいです。
お菓子の素材として、小麦粉が主流の材料でしたが、大麦粉は小麦粉と同等の細かさで使いやすい。今まで、小麦粉からそのまま置き換えられる粉はなかったと思います。だからこそ大麦粉はすごい! 今後は、お店でも大麦粉入りのお菓子を出していきたいと思います。

小嶋 ルミ●オーブン・ミトン オーナーパティシエ
東京・武蔵小金井のケーキ店「オーブンミトン」オーナーであり、女性パティシエの草分け的存在。良質で自然な素材を使い、女性スタッフと共に手作業にこだわり、美味しさを追求している。お店には地元はもちろん、全国、海外からもお客様が訪れる。お菓子教室も運営し、確実においしくできる技術を伝授する。
HP:https://ovenmitten.com
Instagram:@ovenmitton.koganei